防犯ポスターにおける犯人像・犯罪観についての調査

街を歩いていると様々なポスターをみることができます。道案内、何かしらの宣伝、注意書き…そうした掲示物は日夜それぞれのメッセージを発信し、通行者に何かを訴えかけています。そんな中でも目についたのが何かしらの注意を呼び掛けるポスターです。



例えばこのような詐欺に注意しよう、という内容ポスター。



交通事故に気を付けようという内容のポスター。



駅のホームに貼られていた「歩きスマホは危ないよ」といった内容のポスター。現代っぽい内容です。

何かと暗いニュースを聞くことが多いように感じる現代において、こうした注意喚起のポスターたちの発するメッセージはますます強くなっているように感じます。

さて、冒頭紹介した詐欺注意のポスターですが、



赤丸の部分に注意の対象たる悪人、犯人的人物が描かれているわけですが、このように影を擬人化したような姿で描かれています。
個人的にはこうしたポスターに描かれる犯人というものは、ニット帽をかぶっていて、サングラスをかけていて、マスクをしているような、そんな漫画に出てくるような人物を想像していました。多分私が同じ題材で描け、と言われればそのような人物を描くと思います。

このポスターを見かけた際にふとそんなことを考えたのですが、こうしたイラストで描かれる犯人には作者の思い描く犯人像が反映されているのではないかと思いました。
こうした犯罪関連の注意喚起ポスターに描かれた犯人像を調査することによって我々日本人の中にある『犯人像』が見えてくるのではないか。そのように思い今回調査してみることにしました。

まずは調査結果です。今回は46件を集計しました。私の独断と偏見と主観により集計しているため、偏りなどあるかと思いますが、概ね下のグラフのような結果になりました。



カテゴライズが2種類しかないのと、グラフの凡例だけではピンと来ないものもあると思いますので、詳細を紹介したいと思います。

 

 

具体的な人物像

 

こちらは、具体的な人物描写があるものをカテゴライズしています。

 

1.犯罪者的外見をしている



冒頭「私ならこう描く」と申した描かれ方です。上のポスターなんかはまさしくそのイメージのもので、マスク、ニット帽、サングラスを身にまとった典型的な空き巣が描かれています。



犯人的な描かれ方といえば、こうしたトラディショナルな泥棒的な見た目で描かれているものも発見しました。実際にはこんな、逆に目立つだろみたいな泥棒はいないわけですが、意外とスッと入ってきます。



同じくサングラスで顔を隠している描かれ方ですが、こちらはスーツ風の装いで描かれています。このようなサングラス+スーツという見た目で描かれているパターンも多かった印象です。



今回対象にするのは何もプロの作品ばかりではありません。こちらは小学生のポスターコンクールに提出されたものだと思います。前述した3つに比べると特別おかしな格好はしていないものの、帽子、眼鏡、更に飴といったアイテムで犯人感を演出しています。

 

2.一般人的な外見



 

1で紹介したものに比べると比較的外見的な特徴は少ないものをカテゴライズしています。こちらのポスターは服装は普通なものの、不気味な表情で悪人感を演出しています。こうした表情で魅せるタイプのポスターも何件か発見できました。



こちらは目のクマと目つきの悪さで犯人感を演出しています。また所謂犯人的な服装ではないにしろ、となりにいる制服の少年と比べると派手な服装をさせ悪者間を出そうとしているように思います。



表情という点では今回調べた中ではこいつが一番悪そうな顔をしていました。悪そうな顔が描かれているポスターは何種類かありましたが、ここまで表情にステータスを振っているのは珍しい印象です。



また更にあっさり、といいいますか、見た目をより一般人的に描く例も数点見られました。服装、表情ともに大きな特徴がありません。冒頭書いたように、私の思い描いていたイメージと差があるため意外に感じました。



1枚目の画像のようにわりとイケメン風に描かれているケースをもう1つ発見しました。こうした注意喚起ポスターも時代の流れとともに絵柄の雰囲気が変わっていくのでしょうか。



ただ、考えてみると万引きやこのポスターの痴漢のような犯罪を取り上げる場合、服装に特徴を持たせるよりこうした「どこにでもいそう」という描き方の方が実際のイメージに則しているのかもしれませんね。

 

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今まで紹介したような具体的な犯人像が描かれるパターンで多かったのは顔を隠す、特にサングラスをかけているパターンが多く、また服装は黒のスーツが多かったです。正装であるはずのスーツが犯人像によく使われるというのは興味深い結果な気がします。

 

 

概念的な悪人像

 

次に紹介するのは、概念、つまりはっきりした人物像を用いずに犯人像を表現しているパターンです。

 

1.影、黒タイツ風



次は概念的悪人像カテゴリです。その中でも多かったのが記事冒頭でも紹介したような、影というか、全身タイツというか…「名探偵コナン」の正体がバレる前の犯人のような姿で描かれるケースです。



こうした描かれ方はこの画像のように「日常に潜む恐怖」とか「姿のわからない(得体の知れない恐怖)」みたいなものを表現するのに適しているのかなと思います。



またこのパターンのものを分析してみると、怒っているような表情よりも、ふてぶてしく笑っているような表情で描かれることが多いように思います。こうしたはイメージは何が元になっているのでしょうか。



なおこの描かれ方の亜種だとに思っているのがこういうウイルスの擬人化みたいなやつです。スマホやPCのウイルスの表現としては比較的よく見る気がしますが、犯人を表現する方法としては珍しい気がします。



またこれも亜種だと思っているのですが、怪しげな仮面が描かれています。このパターンはこれ1個しか見つかりませんでした。

 

2.手をピックアップ



こちらは犯罪を犯してしまった後悔の念を「手」という形で表現しています。「えらいことになった…」みたいな場面を表現しており、手が主体のものはこの表現方法が多いのかなと思っていましたが、今回調べた範囲ではそうでもありませんでした。



「手」というのは犯罪と親和性が高いような気がしていて、このポスターのように手錠のイメージもありますし、犯罪に手を染めるとか、手を汚すとか、何かと絡んでくるように思います。



スマホの周りにいるコウモリみたいなやつに目が行きがちですが、犯人にあたるのは右上でスマホを操っている手だと捉え本カテゴリで紹介させていただきました。こうしたIT犯罪関連のポスターで手が主体になるのは珍しい印象です。

 

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概念的に描かれるパターンで多かったのは全身タイツのような見た目で黒(もしくは濃い紫や濃い青)一色で描かれるパターンです。概念的に描かれる場合黒や寒色が用いられることが多そうです。

 

 

まとめ

 

今回「すぐ見つかるだろう」と思って調査(その辺をぶらぶら)したのですが、思いの他サンプル数が集まりませんでした。





その要因を考えてみたのですが、「悪人 × 被害者」という構図のものではなく、こういった「守る側の視点」で描かれているものが主流なのかなぁと思いました。同じメッセージを伝えるにしてもポジティブなほうが印象が良いのは言わずもがなでしょう。あとは単純にイラストではなく実写のものが多かった印象です。

 

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さて、今回の調査の大きなテーマは、冒頭書いたとおりポスターから日本人の犯罪者像、犯罪性を読み解く、というものです。
今回調査して私が感じたこととしては、こうしたポスターの犯罪性を強調させるには色情報というものが非常に重要なのではないか、という点です。

背景やフォントには警告色である赤や黄色が使用されていることが多いのですが、犯人の場合はその逆で、具体的な犯人像が描かれている場合、服装が黒、灰色、濃い青など、概念的な犯人像が描かれている場合にはその概念自体の配色に黒、紫、濃い青など、総じて暗い色、もしくは寒色が使用されている印象でした。他国との比較は必要かとは思いますが、少なくとも日本人はこうした暗めの色に怪しさみたいなものを感じる様です。

 

報告は以上になります。