私たちの足元には蓋がある、そして蓋にはドラマがある

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落ち着きがない人間のわりには「落ち着いてるね」とよく言われます。

辺りを歩いていると、自分の足元は蓋で溢れていることに気がつく。

まずはこの写真を見て欲しい。

シンメトリーなツートンカラーが美しい正方形も蓋、奥の丸いのも蓋。長いのもあんまり外すことはなさそうだけどたぶん蓋。

それらのほとんどはマンホールとか、そういった類のものの蓋であるから、時折人間が開け閉めしているのだというところまでは想像できる。

でも、外された状況を目にする機会はそこまで多くない。

少し注意して観察してみると、蓋の様子は本当に多種多様で、見ているだけであれこれ妄想が始まってしまう。

最初設置された時はどんな環境だったんだろう、この下はどうなっているんだろう、最後に蓋を閉めた人はどんな人だったんだろう……などなど。

ちなみに私がもっとも心惹かれる蓋は、先ほどの写真のような、周囲の地面とデザインを合わせ、主張を控えめにした蓋である。ここでは「憑依型」と呼びたい。

私の中では、今のところ蓋の分類は3つに分かれる。

あくまで蓋としての機能が無駄なく詰め込まれた「機能型」(幾何学模様は滑り止めの役割を果たしているらしい)

地域独自のイラストが描かれているなど、存在感を発揮している「主張型」(これのマニアは結構いるみたいなので調べるとたくさん出てくる。カラーのやつもある)

そして私の心を掴んで離さない「憑依型」

勝手に命名しているだけなので、もっと違う分類があるよ!という人がいたらぜひ教えてほしい。

憑依型に心惹かれる理由としては、やはり「思いを馳せやすい」、これに尽きる。

堅苦しい説明はこのくらいにしておいて、とにかく以下に紹介する例を見てほしい。背景を妄想するだけで、蓋が愛おしく見えてくる、かもしれない。

まず一つ目。周りの歩道とはタイルの種類が異なるパターンだ。これは比較的よく見かける。もはや憑依できていないのだが、立派な憑依型である。
もともとは周りにも同じタイルが敷き詰められていたのだろう。歩道自体は改修され、タイルも張り替えられたが、蓋はそのアップデートから取り残されてしまった、そんなところだと思う。

点字ブロックはきちんと辻褄が合うようになっていて、そこだけは死守するぞと言う意志が感じられる。なんとも健気である。この意志というのは、人間の意志ではあるのだけど、蓋自身の意志であるようにも思えてならない。

こうして取り残されている蓋は数多く存在するのだろう。そこだけ時代が止まっているような、不思議な感じがする。
タイルに詳しい人なら「ああ、あのタイルはもう製造されていなくてね」なんてうんちくを語ってくれるのかもしれない。そういう人がいたらぜひ友達になりたい。

こちらも周囲の歩道とはタイルの種類(色)が異なっている。そしてこの蓋の場合、蓋の周りがアスファルトに侵食され始めている。

いずれ歩道全体がアスファルトで覆われてしまうのかもしれない。いつまでこの場所を守れるのか。そう考えると切なさに胸が締め付けられる。
おまえもいつか、アスファルトになってしまうのかな……。

三例目はなんともむず痒くなる一枚。私が憑依型の蓋に心奪われたきっかけとなった一枚である。

何かの作業者が蓋を開け、閉める際に蓋の向きを気にせず閉めてしまったのだ。
私はこういうものを見ると「どうして!どうして!!!」と叫びたくなる。蓋自身もそう思っているかもしれない。
でも人にはうっかりしてしまうこともある。

こちらは連続した歩道上で見つけた、「かなり健闘している」三例である。
点字ブロックの配置もバッチリ、タイルの向きもかなり整えられている。

細かいところを気にすればキリはないのだけど、作業者も蓋の位置にこだわっている時間はあまりない中で、几帳面な性格を発揮してくれたのだろう。その丁寧な仕事ぶり、ちゃんと見てますよ。
心からの拍手を送りたいと思う。

お次はこちらのピタッとはまったなんとも気持ちの良い1枚。

東京駅前の広場で撮影したものであるが、恐ろしいことにこの広場、どの蓋を見てもぴったりバッチリはまっているのである。丸いのも四角いのも寸分の狂いもなくはまっている。とにかく他の写真も見て欲しい。

あまりにも美しすぎるので逆に怖くなってきてしまうが、東京駅の前というだけあって、作業者も並々ならぬ気合が入るということなのだろうか……。

「父ちゃん、明日東京駅で仕事してくるからよ!」と息子に話しかける親父の誇らしげな表情が目に浮かぶ。いつの時代なんだ。

ここまで憑依型の蓋について、いくつかの例を紹介してきた。

ひょっとするとここまで読んでくれた方の中には、すでに蓋を見て妄想をたくましくしている人もいるのかもしれない。

そんなあなたに、最高に胸が締め付けられる一枚を送りたいと思う。

どうして!!!!!