建物の壁に見る”都市の年輪”

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仲秋の候。皆様いかがお過ごしですか。

私ごとで恐縮ですが、2度ほど入院した経験があります。特に2度目の入院は曲がった背骨の変形を治す手術で1カ月弱の長期の入院となりました。この時の入院は私の人生の中ではなかなかのビックイベントだったと言える出来事で、今のところ人生で1番辛い思い出となっております。辛かった。まず痛くて辛かった。

手術後、麻酔から覚めて意識が戻るとあまりの痛みに震えました。さらに高熱も出ておりましたので余計に震え、カタカタ震えるたびに背中の傷に響き「サムイ、イタイ、サムイ、イタイ」を消え入るような声で繰り返し言ったあの日。忘れることができません。歩行ができないので自力でトイレもいけず、自分で食事もできなかったので母から食べさせてもらい、夜になっても痛くて眠ることができず、風呂も入れず、暇でも体力がないので本すら読むことができず、ただ「痛い」とだけをベットでブツブツ言う生活が約1週間ほど続きました。

その後少しずつでしたが歩いたり食事をしたり身の回りのことができるようになり、気持ちにも余裕が生まれました。そしてちょっと元気になった私が楽しみにしていたことは、立ち入り禁止の非常階段から外にでることでした。入院中は一切外に出ることができず、そのことも辛かったことの一つでした。外の空気を吸いたい。人目のない4時くらいから病室を抜け出し、看護師さんに見つからないように忍者のようにコソコソ歩き、非常階段を目指しました。扉を静かに開けて、朝の冷たい空気を吸うと気持ちが落ち着きました。

ある時は日の出を見たり、またある時はこっそり持ってきたシャボン玉を飛ばしたり、辛かった入院生活ですが非常階段で過ごした時間は少しだけ楽しいと思えるものになりました。そんな非常階段生活を送っていたわけなのですが、これも楽しみの一つと言えました。

壁のシミ。壁のシミになんだか良さを感じて写真を撮っていました。そしてそれを加工しさらに良さを感じて自己陶酔していたのですが、この時加工した写真がこちら

闇です闇。この時は壁のシミを流血に見立てて写真を加工しました。一人病室で…恐ろしい!頑張って楽しさを見つけて前向きに生きていましたが、やっぱり辛かったんだなと自分で自分を抱きしめてあげたい気持ちになります。今となっては全く良さを感じませんが、なんだか捨てられない1枚です。

なぜ壁のシミに関心を持ったのか、この時は「なんか良かった」としか言葉に表すことができませんでしたが、元気になった今でも壁のシミや何かの跡に注目してしまうことがあります。

そこで今回健康になった私が改めて壁を観察してみてはどうだろうかと、あの壁この壁を観察してまいりました。壁を観察して思ったり感じたことを発表したいと思います。

壁の観察でまず目につくのはへばりついた植物です。

へばりついた植物は強固に壁に付着し、その力強いエネルギーに引き寄せられるように自然と目がいってしまいます。

時には建物全体を覆い尽くすほどに繁殖し着床します。ちなみに「ツタ」の名称は「つたって」伸びる性質から由来しているのだとか。このように建物を飲み込みマンモス化してしまうと始末が大変になるようです。ツタは途中から切っても再生するので根こそぎ取るか、燃やさなければなりません。

ツタは茎の先端にある吸盤を使って基盤に張り付きます。葉が枯れおちてツタの茎や根がしっかり張り巡らされている様子がよくわかりますね。まるで毛細血管のよう!このように生命力の強いツタは撤去された後もしっかりとその爪痕を残していきます。

どれほど繁栄していたかは一目瞭然。以前この家にはツタが生い茂っていたけれど、手に負えなくなったもしくは先手を打ってツタを断ち切ったと想像できます。

こちらのご自宅も然り。

こちらの壁跡には吸盤らしきものも残っています。おそらくこの壁は再びアイビーに覆われる運命を辿るでしょう。だって青々とした元気なアイビーが待機していますから。そしてこのアイビーの痕跡であろう跡地を見て私はあることを連想しました。せっかくなので得意の写真加工を使って表現してみたいと思います。

羽を広げたクジャクです。

さて次に気になったのは外壁のひび割れです。

人が歳をとるように建物も同じように歳をとります。人が歳をとるとシワが入るように建物も歳をとるとヒビが入るのです。

ミシミシと入ったヒビ割れ。建物の老衰化によるものなのに何故かこのヒビからは勇ましさを感じます。

繊細にヒビの割れ目に沿わせて修復する様子が見受けられることもあれば

時には大胆にハケで塗り潰されたようにヒビ跡は補修されます。

このヒビ割れを補修する様子を見て真っ先に感じたことは「金継ぎみたい」ということでした。

金継ぎとはお皿や骨董品が割れてしまったり、欠けてしまった際に金などの金属粉で継ぎ目を修復する技法なのですが

壁のヒビ割れ修復跡も金継ぎ同様、大切なものを長く使うために破損した部分だけを修復し、その修復跡さえも味として楽しんでいるのだろうと勝手に解釈したのですが

調べたところ建物の壁のヒビ割れに関しては、ヒビのところから雨水が染み込むと中の木材等が腐ってしまう原因になるそうで、味とかそういう問題ではないようです。けれども私はこの建物のヒビ割れにも「いい味してるな〜」なんて感じていたのですが、同じように壁のヒビ割れに趣きを感じている建物に遭遇しました。

昭和の頃から建っていたであろう古いビルの1階。こちらはお菓子屋さんの壁なのですが、細かいヒビが壁にたくさん入っています。触って確認してもヒビのガタつきを手先で感じます。

店内を覗いてみると、床もヒビ割れたコンクリートで統一されています。もちろんこのヒビ割れは自然に入ったものではないと思いますが、もしかすると建物のヒビ割れを味としてデザインしたのかもしれません。またお菓子屋さんの入ったビルもその周りのビルも古い建物が多く、周りの景観とも馴染むようにデザインされたのか…全て私の憶測ですがこんなことをあれこれ考えるのも楽しいものです。

「いっそ建物の壁も金継ぎしてはどうだろうか!」と我ながらナイスなアイディアを思いついたのですがニューヨークでRACHEL SUSSMANという方がやっていました。道路のヒビ割れなどを金継ぎで修復した様子を彼女のホームページから見ることができます。とてもかっこいいですよ!

お次は雨水などが壁を辿ってできた跡に注目しました。

雨水と金属が溶けて流れた様子だと思うのですが、涙の跡のように繊細な線が魅力的です。

サビが溶け出した跡は線香花火みたい。

油と苔とサビが重なった様子でしょうか。この部分だけ、釉薬を重ねがけした陶芸品のようにも見えます。

こちらは土砂や濁流によって勢いよく流れる川のよう!さてここでまた私が壁のシミから感じたことを表現したいと思います。

ヌーの川渡り。

最後に紹介したいのは、模様のような跡です。

何故丸い模様の跡が残っているのか。きっと以前に壁と何かしらの物体が接触していたのではないかと考えられます。

こちらは何かを隠しているのでしょうか?なにを隠しているのでしょう。難しい。思いつきません。

この四角に隠されたものは…!ヒラメキました!このお宅、以前はバランス釜のお風呂だったのではないでしょうか。リフォームして撤去した跡ではないでしょうか。

これは…何でしょうか。何か大きなものが壁と接触していた跡と推測。でもなんかこの壁の跡は抽象画っぽいですね。抽象画といえばピカソですよね。美術に関して薄っぺらい知識しかないもんで、なんだかよくわからないけど良い味してるものはみんなピカソって思っています。ではここで最後に私の表現を披露して終わりたいと思います。

うーん、これが一番しっくりくるかな!!

結局何故、私は壁のシミに関心を持ってしまうのか考えたのですが、長い年月を経て自然に出来上がった模様や跡を尊いものだと感じるのではないのでしょうか。最近玉木宏のシワが増えたような気がするけど疲れた感じも色っぽいよね!と思う気持ちと壁のシミやヒビ割れもなんか味あるよね!って思う気持ちもきっと同じなのだと思います。