コンビニのコンドームの陳列位置から見えてくる、購入・使用の物語

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leinishikata

都内住み都内勤務の会社員。思い出から掘り起こした生活の中の性について、考えたり文章を書いています。

「終電まであと何分」のカウントダウンがはじまった妖しい街で、タクシー乗り場の場所だけ確認してから駅とは反対方向へ、ここよりもやや人通りの少なそうな場所を歩きながら「は~タバコタバコ~タバコがほしい~」とか言って足早にコンビニを探し、ようやく見つけて「そんじゃ買ってくるね~。」と一言断りながら買うのはもちろんタバコだけではない。誰にも見られずなるべく早くパッと買いたくて店員にすら気づかれたくなくて一刻も早くこの場を離れたいのに、ふと我に帰って考える。
『あれ、コンドームってどこにあるんだっけ?』

生活においてコンドームって結局のところどこに分類されるのかよくわからないから、どの辺にあるのか見当がつかない。青少年に有害とされているものではないし、でもなんとなくお菓子とか飲み物じゃなくて、ガムテープとかなんか工事現場に使われる変なヒモとかが置いてある、あんまり物が売れてなさそうなコーナーをグルグル回ってやっと見つけられる場所にぽつんと佇んでいそうなイメージだ。

実際に何軒かのコンビニを回ってみて気づいた。例えばアーモンドチョコはチョコレートのコーナーに、紙パックのお茶は紙パックのコーナーでひとくくりにされていることとは少し違う。姿形から買うまでに取る人の行動、時に買ってから使うまで、そして使った後のことまで予測し、各々の解釈で想像力を膨らませて工夫し、陳列されていた。

わたしはこの記事で、この陳列されたコンドームとそれを取り巻く環境から、使用するに至るまでの2人の状況を勝手に考察してみることにした。欲望に溺れる甘い時間の裏には、名も知らぬ人々の心が、たしかに存在していた。


家に着いていつもの場所に腰掛けている彼女を横目に、トイレに入る。取り出したのはコンドームと、そして手ピカジェル。二人で手を繋いで家路を行っていた間に、咳をしている人を何人も見かけた。始まってしまったら、見えている快楽に縛られすぎて、見えない危険のことまで考える余裕は存在しない。だから、この2つの商品が隣同士に並んでいたことは、決して偶然には思えなかった。

実はこっそり可愛いと思っていた先輩と帰り道が一緒になったのも信じられないのに、別れ際、急に「さみしいから朝まで一緒にいていいかな」と言われた。こんな夢みたいなことあるんだろうか。もうびっくりしたもんだから「ちょちょちょちょちょっと待っててね」と言って近所のコンビニへすっ飛んでった。少しさまよい見つけたその場所の周りには、熱さまシート、マキロン、体温計。そう、これは緊急事態。よくわかってんな、と少し笑って、ダッシュでレジへ向かった。

2018年現在、未だ互いに完全に分かり合えない、男と女という2つの種族。2種類の体の作りから生み出された生活用品もまた、同じシーンで使われることはない。だからせめて、いつか分かり合える日が来るまで、2つは1つの場所に置いておこう。そんな願いが込められているかのように感じた。この一角を求めてやってくる2人は、一番近くて一番遠いということなど、最初からわかっているのに。

今日は彼女と3回目のデートなのに、寝坊して髪をセットしていくのを忘れてしまった。昼休み、おそるおそる会社の下のコンビニを覗くと、大量の整髪剤があって安心した。自分の探しているものはすぐに発見できたが、その真下を見て動きを止めた。2回とも何事もなく夜に解散している。でも僕は彼女ともう少しだけ一緒にいたい。あわよくば、もっと彼女のことを知りたい。会社を出たらすぐに彼女と合流する予定だ。今整髪剤と一緒に買ったら、明日まで僕と一緒にいてくれませんかって、言えるだろうか。

広い店内の、どこにあるか最初に考える。全く検討もつかなくて愕然とする。少しのタイムロスも許されないのに。荷物運搬用の入り口は「スリップ注意」なんて看板が掲げられるくらい意外と傾斜がきつくて、前かがみになりながらとりあえずゆっくりと歩き出そうと思ったその瞬間だった。

腰を落とした顔面のすぐ近くに、この広い店内探すことを諦めていたそれが、たしかな存在感を発揮していた。

終わった後は虚しいなんて、そんな悲しいことは言わないでほしい。ベッドに潜り込み、そのまま寝て朝を迎えるのはわたしだって悲しい。一緒にお風呂にでも入って、あの嵐のように去って行った時間からはみ出している今を、少しでも楽しみたい。照明で明るみになったお互いの裸を、ぶくぶく泡の立ったお風呂でぼやかして。

「今のコンビニにはタバコ置いてなかったんですね」と言ったけど、わたしは知っている。あのコンビニの隣にはタスポがあったことを。すぐ先のコンビニで今度はわたしがコンビニに入る。トラベルセットってこういう時本当に助かる。ふと右を見る。少し悩んだ。こういうとき、わたしが買うべきなのだろうか。でも、この願ってもいない大チャンスを、絶対見逃すわけにはいかない。結局今夜使う場面が来なくても、これからもわたしを守れるのはわたしだ。会計を済ませた小さな茶色い紙袋をきゅっと握って、決意した。