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私の実家には小さな仏壇がある。
仏壇と言っていいのかわからないが、本棚の一角に亡くなった祖父母の写真やロウソク、お札、水、キューピー人形やミッキーマウス、ピエロ等が飾られており、少々カオスな仏壇だがお彼岸にはおはぎを、初物の果物を食べる時には必ずこの仏壇にお供えをしている。
小さい頃、我が家のこのカオス仏壇の水を交換するのはの私の仕事だった。「天国には水がないからおじいちゃん達の喉が乾かないように」と言われ、私は毎日コップの水を交換した。私が忘れたらおじいちゃん達の喉が乾くと思い、別に誰かに頼まれたわけでもないのに義務のように毎日コップの水を交換していた。
それから何年か後、私の水当番の仕事は父の仕事となった。よく覚えていないけどたぶん思春期の頃くらいからだったように思う。あんなに熱心に勤しんでいた水当番を忘れるようになり、それに気がついた父が黙って水当番の後任を引き継いだのである。
父は今でも朝起きて仏壇の水を換えている。
タイに行ったらうちみたいなカオスな仏壇があった。
これが仏壇なのかわからないけれど、僧侶や馬やゾウもいてにぎやかだ。ピエロもミッキーもいるうちの仏壇と重なって見えた。
こっちはもっと華やかだ。花もたくさん供えてあるし、先ほどの仏壇(のようなもの)に比べると色彩鮮やかだ。そしてやたらシマウマがいる。シマウマがラッキーアニマルなのだろうか?それとも持ち主の前世がシマウマだったのだろうか。
ちなみにこの仏壇(みたいなもの)はタイのあちこちで見られ、私が旅をしたチェンマイとバンコクでもよく見かけられた。店の前、住居の前、道端、結構あちこちに点在している。
後日タイのカオス仏壇について調べてみると、どうやら仏壇ではなくピーという精霊の祠だということがわかった。ピー信仰というのがタイの文化にはあるようで、詳しいことはわからないけれどタイ人にとってピーは重要であるということがなんとなくわかった。
ピー信仰(ピーしんこう)とは、主にタイ族が信仰するアニミズム(精霊信仰)のことである。バラモン教、仏教などの外来宗教の伝来以前からタイ族全般に存在したとされる信仰の形態であり、現在でも外来宗教の影響を受けながらも、タイ族の基層の信仰として根強く残っている
(ピー信仰 – Wikipedia)
ピーは結構都合の良いもののようで、お化けもピーだし精霊もピーだし死者もピーだし妖怪もピーだし小さな神々もピーだし先祖もピーのようだ。だから人によってピーの解釈は違うらしい。
そのため天災が起きれば「ピーの祟りだ!」誰かが病気になれば「ピーの祟りだ!」悪い夢をみれば「ピーの祟りだ!」となるようで、なのでピーが暴走しないようにタイ人は祠を飾り、お供え物をし、健やかな生活が送れるよう祈りを捧げるようである。(素人研究社調べ)
私は特定の宗教に入っているわけではないけれど、人並みに信仰心はあると思う。ご飯は残すと目が潰れるから極力残さないし、朝蜘蛛は殺さないし、霊柩車を見たら親指を隠す。
だけどご飯を残しても目は潰れないし、蜘蛛を殺しても、霊柩車に親指を立ててもたぶん何も起こらないことを知っている。でもそんなことしないぞと思ってしまうのは、私もなんだかよくわからない都合のいいものを信じているからだと思う。
もしかして私もピー信仰 なのかもしれない。
ところでピーの観察で気になったのは「ピーに何をお供えしているのか」ということだった。元水当番としても気になる。我が家は特別な日以外は基本水だけをお供えしていた。
そこで63のピーを観察してみたところ、結果はダントツで「水」だった。23%のピーのお供えが水だった。もしかすると天国に水ない説は我が家に限った話ではないのかもしれない。
こちらも水。水の入ったコップもライトアップされたピーも可愛らしい。
祠から水までもグリーンで統一されている。ピーの喉は絶対乾いていると思う。
よく見るとおちょこのような小さいグラスに水が入っている。我が家も本棚に仏壇があるが、このお店も上手にスペースを利用してピーを祀っている。積み上げられたお茶の袋がピーに謙遜して退けているようにも見えて面白い。
水に次いで多いのがジュース。特に炭酸系をよく見かけた。こちらのお供え物はファンタ。
こちらはコーラ。今回の調査ではコーラのお供えはこのピーのみであった。タイではコーラよりもファンタの方が人気なのかもしれない。
色味を抑えたシックなピーにアーモンドミルクが供えられている。ピーの観察を通して持ち主のセンスも感じられる。
オレンジジュース?と水。オレンジジュースの色味からほぼ砂糖のオレンジ風味ジュースなんだろうなと予想ができる。
ところでタイで購入する飲み物は水以外はだいたい甘い。コンビニでお茶を買っても甘い。食堂でご飯を食べていたら隣に座っていたおばあちゃんから赤い色をしたイチゴの絵のペットポドルをもらったけれど、すごい甘みで体に悪そうな味がした。
↑少々見づらいがばあちゃんからもらったイチゴのジュースが路上で供えられているのを発見
タイのカフェでフラペチーノ的なものを買ったらびっくりするほど甘く、そしてデカかった。絶対的にこの国は糖尿病が多いと思ったら本当にそうだった。
これから何年かすると健康意識が高くなってタイではノンシュガーの飲み物が流行ると思う。そうしたらきっとピーのお供えも変化するのではないだろうか。
さてこちらはご飯がお供えされている。たぶんガパオだと思う。それとお水とチップスター。
これをピーと解釈していいのかわからないけれど、こちらもガパオ。目玉焼きがとても綺麗。スプーンとフォークが添えられているところも良い。
こちらもピーなのかよくわからないが、ピーの解釈は人によって違うようなのでこれもピーということにしておく。宿泊したホテルにて撮影。ホテルの朝食のメニューが並んでいた。
炭酸飲料と芋?ずいぶん固そうな芋のように見える。
食べ物がお供えされているのに虫が湧いていたり、猫や鳥などに荒らされる様子が見られない。不思議だ。何か対策をしているのか、それとも生き物も恐れ多くて祠には近づかないのか…
少なくともきちんと人の目が行き届き、定期的にピーの管理をしている様子であった。ピーを整えることで防犯対策にもなっているような気もする。
お茶?とバナナ。南国のバナナだ。
こっちはバナナとココナッツ。
炭酸飲料と毛がモジャモジャの赤い果物はランブータン。
日本でも果物のお供えはよく見かけるけど、タイでも果物をお供えする文化があるようだ。南国のフルーツのお供えから異国情調を垣間見ることができる。
さて、様々なピーのお供え物を見てきたが皆さんお気づきになっただろうか。
ピーはどうやらストローを使うらしい。
タイではコンビニでペットボトルを購入すると必ずストローが付いてくる。飲み口に直接口をつけるのは汚いとの認識らしく、その配慮はピーにもされている様子であった。
昨今の世の動向としてはプラスチックストローを廃止する動きが見られ、スターバックスは2020年までに全店廃止の目標を掲げている。また台湾でもタピオカミルクティーのストローを規制する法案が検討されているとか。
今のところタイではストローの使用に関する大きな取り組みなどは行われていない様子だが、ストローを使うことがこれほど文化として根付いてしまっている国の取り組みには今後も注目していきたい。
「ピーはストローを使わなくてもok!」という法案が成立されるだけでタイのストローの消費量は随分減ると思われるのだが、どうだろうか。
このようにお供え物の観察をすることでその土地の文化や嗜好を観察することができて面白い。ピーの祠の装飾やデザインも多様で見応えがあるのでタイを訪れた際はお寺めぐりも良いがピーめぐりもしてみてはいかがだろうか。