看板が抜けて枠組みだけとなった「抜け看」の額縁としての可能性

春も前輪をとうに落とした過日のこと。早速自虐家の私も手の内を明かそう。昨今の私といえば、こういった前置きヅラした与太話を、求められてもないのにはじめちゃってる節がある。そのどうでもよい話がいつのまにか華麗に本題と糾っていくのならまだしも、幾らも本題とは関係のない話を打ちつらね、ていたと思えば立ち所に本題へ切り替わっているそんな有様よ。その継ぎ目の粗さは歌舞伎揚よ。

「我(が)を晒したいって心情がわからんってこともねえけどよ、さっさとタイトルに見合う話をおっぱじめてくれ」という声もあるだろうが、本題よりもココにいっちゃんパワーと時を注いでいる。勿論今回も例の如く私情を挟もう。挟みに挟んでついぞメインを迎えず、ただの日記を見せるに終わったろうか。こりゃ名案だ、そうしますわ。

GWの一週間前。私もミーハーの俗人だから帰省しようと、とはいえ出生地である地元ではなく、その隣の市に住む祖母宅へ伺いたいと思い事前連絡をした。

「もしもしばあちゃん、僕ですけど元気?」

「あーアンタかいね、まー1年以上電話もよこさんと『元気?』って、全然元気なんかないわ、まあ前に荷物送ったときも『ありがとう』とか連絡もないから、もうええわって思ってコッチからも電話せんといたんよ、GW?ウチも用事あるけんね、また別の日にして。ん、はい、はい、はーいガチャリ」

以前ここ、前置きで、荷物の発送についてのケチくさい文句を親族に対し吐いた罰であろうか。久しぶりに電話したら急にキレてた。根に持ってた事を付箋にでも書いて、受話器横に貼っていたのをそのまま読み上げているかのような淀みない愚痴だった。

私はババアが87歳で未だ矍鑠としていることに安堵すると同時に、めちゃんこ悲しくなった。粉末のコーンポタージュがしこたま入った荷物を送ってもらった時、確かに私は「荷物届きましたありがとう」の謝辞をすぐさま電話で伝えたはずだけどな。そんでなんだ「もうええわ」とは。勝手にふてくされて見限りやがってよ。私はね電話が嫌いなんだ。掛かってくるのも掛けるのもな。

しゃーねえ。GWは市内の割と賑やかなエリアに行ってみっか、ってことで、ひとり人気のありそうな方角へ歩んでいたらケバブ屋が見えてきた。

親友でもやってきたのだろうか、その小屋みたいな店から嬉々として抜け出てきた店主が、同じく大柄中東顔のその親友と、店先の歩道いっぱいに広がって、両手を使った固い握手をしている。振動をグワングワン加えつつずっとそのままだ。強引にくぐるわけにもいかず、私は彼等を避けようと右の車道側に膨らんだ。

その瞬間、後ろから迫ってきていた軽四自動車にプーーーーーっと鳴らされた。うるせえよタコ。あくまで車道「側」によっただけで車道まで身を晒したわけではねえのによ。

殺人握手

人を死に追いやる握手もこの世には存在するのだなと学習した私は、用事がないときは外にでないと決めた。結局2018GWで楽しかったことといえば寝てる時に見た、無い県を発表するケンミンショーで私がエイヒレ県簀巻き市出身ということで地元銘菓、ふやけたロープのPRしていた、あの時の夢ぐらいなもんだ。司会はみのもんただったがむちゃくちゃ白くてほぼ和紙だった。

 

宣言通り急に本題へ行きます。ちゃんと掴まっててくれ。

私達は見たことがあるはず、この鳥居にもみえる枠組みを。

これは、外的要因や経年劣化などによって抜け落ちてしまった看板の枠組み。

通称 「抜け看」

私はコレ、抜け看を新しいトマソンとして広めていきたい。

ゆくゆくは月刊抜け看、抜け看のみを発信をするインスタアカウント、抜け看ラインスタンプ、抜け看ぬいぐるみ、抜け看カフェ、るるぶ全国抜け看巡礼特集、BRUTUS抜け看特集など諸々のメディア展開をさせていき、最終的には抜け看のみで前後編の2週に渡ってタモリ倶楽部で放送されるべきだ、と思っているほど抜け看に魅了されています。

抜け看というのは私達があずかり知らぬ経緯によって、掲げていた看板を紛失し、枠組みのみとなってそこに泰然自若と立つ、あのトマソンの類といってもいいでしょう。

これは私が以前見つけたトマソン。

柵の向こうの建物が新たに建ったことによって、そこに柵がある必要性が無くなり、よって柵自体が際立つことになってます。寸前の壁面に存在を問われている状態です。

抜け看への理解のため、はじめにトマソンってなんだ?ってのをエラソーにレクチャーしましょう。

ざっくり検索してみるとトマソンとは「建築物に付着して、美しく保存されている無用の長物」とみんなが言ってるのでそういうことらしいです。

画像もいっぱい出てくるので調べてみてネ。

トマソン。それはバグ、都市改変の歴史のその断片、管理者権限が得られず削除できない残留データ、のようなものです。

周辺環境の変化による行きがかり上、やむを得ず実利的機能を閉ざすこととなり、オブジェとして結晶化してしまったのがトマソンである、となんとはなしに思います。

トマソンは観察者である私達が見出すといった関与をして初めて顕在化するので、理論上定義出来たとしても、対象化されずに人知れず違和感だけ漂わせ、うまく潜伏している場合が多いです。

今後増えるのかも、減っていくのかもよくわかりません。

対象化の機会をトマソン自体も望んでいないのもあってか、見つけることが結構難しいです。

でも私は凄いので見つけることが出来ました。

 

看板を失い、枠組みのみとなったトマソンを「抜け看」として類型化することに成功したのです。

 

別の日に見に行ったら傾きが逆になってた

抜け看がトマソンファミリー加入に相応しい理由は、先に述べたように、外的要因や経年劣化等諸々の理由によって看板を抜け落としてしまい、期せずして個として自律することになった、と推しはかれるそのドラマ性です。

 

それまで自らが掲げてきた案内や、広告などの情報が記載された看板を紛失するや否や、かつて際立たせる側であった自身が、際立つ側になる数奇。

まっとうすべきで責務から解かれ、はじめて自身の輪郭を獲得、それ自体で自足することになったその様は、まさにトマソンのそれです。

アス比がインスタと同じ抜け看

「対象化の機会をトマソン自体も望んでいない」といったのは、それ自体で自足し、閉じてしまっているためです。

無用階段や無用門などその他トマソンも、外環境への展開を閉ざされたことによって輪郭を獲得したものばかりです。そのためトマソンの多くは基本的に無愛想です。

トマソンだからという理由だけで抜け看を今回の主役に選んだわけではありません。

抜け看は凄いんです。最高です、ハイコンテクストです、チャンピオン、重鎮、デリダ、ラカン、頭取、大統領、二条城、立派、旅行、行きたい、3ヶ月ぐらい。

「輪郭」という言葉を表象という意味で使ってきましたが、抜け看が持つ表象としての輪郭と、具象としての枠組み、そのふたつの形に誤差があまり見られないと私は思います。

つまり「輪郭そのもので現象できている」のが抜け看なのです。そういった意味では、抜け看はトマソンというより、極限にデフォルメされたトマソンではないでしょうか?何言ってんのかわかんないでしょう?

私のほうがよっぽどわかりませんがね、ええ。助けてくれ。

 

誰も助けに来ませんでした

これ聴くと石坂浩二さんがなんでも鑑定団のプロデューサーから嫌がらせを受けていた、いつぞやの凄惨な事件を思い出しますね。

こういう余分なでっぱりの多い抜け看もありますが、さらに抜け看板の素晴らしきところをこじつけていきましょうね。そういう回ですから。

抜け看は確かにトマソンです。実利的機能も喪失し、閉じているのですが、抜け看には可能性があります。

 

 

額縁としての可能性です。素晴らしい。

抜け看は、輪郭の中にまた輪郭を備えており、外環境への展開は閉ざしたものの、内環境へは展開しているのです。

一方、抜け看同様の構造を持つテレタビーズは外環境にも内環境に開いています。

抜け看は、向こう側をトリミングし、なにか特別なものがあちらにあるぞと私達の視線を誘い込みます。

額縁として見られることを想定して置かれたわけではないので、眺めてみても奥行きがない場合もあります。

そのために置かれたわけではないので、向こう側の殆どが、何の変哲もなさすぎる風景の場合もあります。

つうかそれがほとんどです。

 

トリミング対象が遠ければ「野良の借景」として楽しめる可能性もありますね。

 

抜け看に額縁の機能を託すと、境界としての画定作用とでもいいましょうか、この広大な日常という空間に、外部と内部が決定づけられたかのように思えてしまいます。

さらに、外部では流れている日常の連続性が、トリミングされた内部の風景においては途切れており、静止しているとさえ感じます。

 

暗い写真ばっかだな

これは抜け看を撮影をしているその瞬間にも思ったことですが、こうして写真として、見返している今の方が、よりそれを甚く感じます。

というのも、抜け看が風景を閉じ込めているその現場を、私がカメラで撮影、それをまたパソコンへと、そんでウインドウに現し、トリミング、枠、枠、枠とどんどん入れ子状態に収斂してって・・・あれ

 

あら!?この世って枠しかないの?閉じ込めてたつもりが閉じ込められてんの?私って?!

もしかして、私は、閉じて、閉じられての悪循環にとらわれて、トマソンになったんか!????

ぼくは抜け看なのかな!?たしかに暗い写真ばかり撮って精神としては開いてはいない、そうかおれはトマソン、抜け看やそうや、おれって抜け看やったんや、そういえば胸んとこもぽっかり穴が空いとる、おい!誰や、そこでおれを監視しとんのは、なんや抜け看か、いやあれはおれか、ほんならええわ。あら!そこに転がっとるムヒアルファexって中身盗聴器入っとんちゃうんか!!!!えぇおい!

 

 

 

これが一番いい感じの抜け看でした

バイバーイ